私が来日した1995年、人間国宝である能楽師・大倉正之助さんと出会う機会がありました。その時のことは鮮明に覚えています。握手をして挨拶をさせて頂いたのですが、太鼓の皮を素手で叩く、タコまみれの硬い私の手を見て、大倉さんは非常に驚いていました。そして、次に行われる演奏で、一緒に太鼓を叩こうと誘って下さいました。
初めて一緒に演奏した日、大倉さんの掛け声と鼓の調べに、アフリカの歌と太鼓を即興で自然に合わせてみました。見事に調和し、感動したのを覚えています。満月の夜でした。その日から約30年、二人の長い旅が始まりました。
日本とアフリカ、それぞれの「伝統太鼓」
日本とアフリカ、それぞれ「太古」より引き継がれてきた「伝統太鼓」を演奏する我々は「太古兄弟」。共に平和を願い、日本各地、世界の舞台においても奉納演奏を行ってきました。
二人は、それぞれの遺伝子に刻まれる日本・アフリカの伝統リズムを、その場における精神や互いの魂を感じながら、即興で演奏してきました。全く異なるであろう、二人の祈りの歌と太鼓のリズムが、驚く程見事に響き合う二人の演奏は、まさに、互いの魂が太古より繋がっていたと感じる他ありません。
一拍一拍が独創的で絶妙な間を持つ能のリズムと、パワフルでリズミカルなアフリカンドラムの鼓動が、見事に調和される二人の演奏は、時代・大陸を越え、日本とアフリカの魂が交わる究極の瞬間であると言えるでしょう。
大倉さんは敷居の高い日本の伝統芸能の世界におられる方です。しかし、「生きとし生けるもの、全ての生命が尊重されます様に」という精神のもと、国籍や宗教、人種などに囚われず、長年グローバルなアーティストと共に音楽を通して平和を願ってきました。この精神はまさに、私がゴレ島で生まれ育った中で「人類全ての生命が尊重される様に」と願ってきたスピリットと重なるものでありました。
来日してすぐに大倉さんとの素晴らしい出会いに恵まれたことに感謝しています。